信州大学農学部で開発された夏秋いちご品種「信大BS8-9」。OBである長谷川哲さんは、このいちごに可能性を感じ、信大農学部のキャンパスのほど近くで、信州畑工房という名のいちご農園を営まれています。
信州伊那高原いちご「恋姫(こいひめ)」が生まれるまで
ーーなぜ、いちご栽培を始めたのでしょうか?
私は、信大農学部出身です。奥さんも同じです。私たち夫婦は他府県の出身ですが、伊那市が気に入りそのまま住み着きました。
卒業してから現在も、車屋をやっています。そんな中、学生時代の友人であるバングラディッシュからの留学生だったバブさんが、日本で働き続けたいと聞きました。奥さんも子供も一緒だということでした。農業で何かできないかなと思っていた時、農学部の後輩が、信大BS8-9の苗が発売になるということで、脱サラして伊那に戻って来ました。それを聞き、バブさんが働けるように、いちご農家を始めようと思いました。現在バブさんは、農場長です。
ーー信大BS8-9に魅力を感じたのですか?
信大BS8-9は、夏秋いちごです。現在、栽培を初めて9年目ですが、当時は夏秋いちごが今よりも知られていませんでした。ほぼ100%輸入に頼っている状況。そして、夏秋いちごのイメージは、おいしくないというものでした。対して、信大BS8-9のいちごは、とてもおいしかった。
ーースタートは順調でしたか?
そうですね。7月から収穫がはじまるのですが、1年目からたくさん収穫できました。ただ、できたはいいが、売り先がまだなかったので、色々なところにサンプルを送りました。すると、次の週に資生堂パーラーの当時料理長だった井上さんが、東京から家族と一緒に見に来てくれました。「こういう、いちごを探していた!」と言ってくれました。
ーーすごいですね!
資生堂パーラーは、昔からストロベリーパフェが有名。夏場に獲れる国産のいちごを探していたそう。でも実は、資生堂パーラーには使ってもらおうと思って、サンプルを贈ったわけじゃなかったんです。というより、使ってもらえるとは思っていなかった。自分たちが作ったいちごが通用するのか知りたかったんです。有名なお店で使ってもらえるレベルに、あとどれくらいなのか。そこで、「今後有名にするにはどうしたらいいのか」というようなアンケートを付けて、送らせていただきました。井上料理長は、そのアンケートをコピーしてくれ、各支店のパティシエやドリンク担当の方などにも配り、それを回収して返送してくれました。3cmくらいの厚さのアンケートが戻ってきました。
さらに、その夏の商品で使ってくれることになりました。1年目は収量なども含め、手探りでした。3年間は名前がでなかったですが、4年目くらいから、信州畑工房「恋姫」という名前をメニューに入れてもらえるようになりました。恋姫という名前は、うちの奥さんが付けてくれたものです。
商工会議所は小規模事業者のよろず相談所
ーー商工会議所との出逢いは?
1年目こそ、サンプル配布を行いましたが、その後はそこまで営業活動に力をいれていませんでした。HPもない状況。いちごをたくさん作っても、お客さんが少なかった。そこで、地道に販路開拓をはじめ、展示会にも出展していました。そこで、商工会議所の方にお会いしました。
ーーどのようなことに取り組んでいるのですか?
まず、一緒に事業計画書の作成に取り組んでいただきました。その計画に沿って、HPやパンフレット、看板を一緒に作り、認知度をあげる取り組みをはじめました。また、販路拡大のために展示会に出展し、有名ホテルの担当者と話ができる機会を得たり、アウトドアブランドとつながったりと、世界が大きく広がりました。今後は、個人のギフト用商品の強化や地元の会社とコラボした加工メニューも進めています。
ーー商工会議所はどのような存在ですか?
こういう情報がほしい、こういう人と繋がりがほしいという時に、とりあえず何でも聞きますね。すると、何かしら返事をいただける。ネットで調べればいいと思うかもしれませんが、膨大な情報がある中、どこに向けて調べていっていいのかわからなくなります。やはり人と人とのつながりの中での方が、話も伝わるし、着実だなと思います。商工会議所では分野外かなと思うことでも、とりあえず聞いてみますね。
伊那を夏秋いちごの一大産地へ
ーー伊那を夏秋いちごの一大産地へ
夏秋いちごを伊那の地域ブランドにしたいと思っています。地域ブランディングを考えるようになったのは、4年目くらい。それまでは、とにかく収量を増やし、安定させることに注力していました。夏秋いちごは、標高800〜1000mが栽培に適しているといわれているのですが、伊那谷はちょうどそれくらい。また、輸送を考えても、長野県は関東、関西、中部圏のすべてにほど近く、輸送状況や時間、コストの面でも優位です。
ーーとても可能性を感じますね。
実際に、伊那で恋姫を栽培する会社もでてきました。「伊那の優良企業が一緒にやってくれたらいいな」と思い、伊那バスの知人に話をしていたところ、たまたま伊那バスも新事業や地域貢献に取り組みたいというタイミングでした。弊社に1年間いちご研修に来られ、次の年から自社で栽培を始められました。今、恋姫の商標権は4社連名で持っています。だんだんと、伊那市内でも恋姫を知ってもらえるようになりました。
ーー恋姫が広がっていきそうですね。
夏秋いちごで、恋姫のこの味に匹敵するものはないと思っています。それから、私もそうでしたが、みなさんいちごが年中あるイメージないですか?基本、夏はスーパーなどにはないんですよ。夏にいちごがないことを知ってもらい、夏秋いちごの希少性を個人の方にも伝えていきたい。そして、希少性の高い恋姫の産地が伊那であると広げていきたいです。もっと、伊那の中で夏秋いちごを作ってくれる人が増えてほしいと思っています。うちは車屋なので車に例えると、軽自動車もあるけど、カローラもあるしクラウンもある。そんな風に、色々な種類の夏秋いちごがある産地が、伊那になればいいなと思います。
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株式会社 信州畑工房
夏秋期でも高い糖度を保ち、甘く濃厚な味わいの恋姫を栽培しています。出荷時期は、6月末〜12月です。
FAX:0265-98-8615
営業時間 : 9:00〜18:00
定休日:不定休
担当支援員よりひとこと
信州大学農学部出身で、Iターンで伊那市へ移住定住され、自動車会社の経営と併せ、新たな着眼点で夏秋いちご「恋姫」の産地化を目指し、着実な事業展開を行う長谷川社長。これまでの人脈と経験を活かし、高品質な農産物の生産は、六次産業化や農商工連携の視点から、地域活性化にもつながり、さらなる可能性を発揮されることを期待しています。
今後も販路開拓や事業計画作成等の支援を行い、伴走型でサポートします。