伊那市富県の地で、長く営業を続けているたかずや鉱泉さん。訪ねると、室内には出汁の香りが染みついたような「美味しい」匂いが漂います。地元に根付いた経営をされている六波羅さんに、今までとこれからのお話を伺いました。


たかずや鉱泉は「地元のため」に生まれた

ーー創業されたのはいつごろでしょうか?

この地での創業ということでいうと、昭和34年になります。


ーーこの地、というのは?

たかずや鉱泉は、もともとはもっと山の上の方にありました。山で渋湯が出るということで、地元の篤志家の方たちがお金を出し合って今で言う入浴施設を作ろうということでできたのが最初です。それが昭和の初期頃と言われていますが、戦争の時代になって休業状態になっていたのが、私の両親が戦後に地元に戻って来て管理人になったという経緯があります。

伊那市の東春近に、たかずやの里という児童養護施設がありますが、その前身がたかずや保養園と言います。これも、篤志家の方たちがたかずや鉱泉のお風呂が体にいいだろうということで、山の上にあったたかずや鉱泉の隣に自分たちの山から材を切り出して建物を立てて法人を設立したことが始まりです。


ーー今の場所に移った経緯は?

あまりに山の上にありましたので、子どもたちが学校に行くのも大変だ、ということで、たかずや保養園が今のたかずや鉱泉がある、少し下の場所に移りました。それに伴ってたかずや鉱泉も今の場所に移転しました。


ーー六波羅さんが経営を継いだのはおいくつの時ですか?

27、8歳くらいの頃でしょうか。今の建物は、その当時に立て直したものになります。ですからうちは、建物は古いですし、設備も最新のものが入っている訳ではありません。でもそれはホームページにしっかり書いてありますから、お客様はわかってきてくださいます。まわりにもなにもないところですが、料理がおいしいからと言ってリピーターで来てくださるお客様もたくさんいらっしゃいますよ。


ーーいち押しのお料理はなんですか?

うーん…、正直なところ「ウリ」のメニューは作りたくないんです。お客様が好んで高評価をしてくださるメニューはありますが、作り手としては、美味しいものはたくさんあるので、その時々に一番美味しいものを提供したいと思っています。


ーーちなみに高評価のお料理とは(笑)

チーズとトマトの茶碗蒸しと鯉のから揚げです。この2品は、お客様から「なんでないの?」と言っていただくことが多いので、メニューに必ず入れるようにしています。

商工会議所の支援がお客様と従業員の喜びにつながった

ーー商工会議所から、今回新たな支援を受けられたそうですが?

今までうちは座敷に着座のスタイルでした。でも年配のお客様から「料理はおいしいけど、座っているのが大変」という声をいただくようになりました。テーブルと椅子をフルで揃えるとなると、かなりの費用がかかるのでどうすればいいか悩んでいたときに、商工会議所の担当の方に話したら、いい方法があると教えていただいて。お金を借りることができるんだと思ったら、そうじゃない、もらうんだよって(笑)。それが小規模事業者持続化補助金というものでした。そのために事業計画を作成することの大切さを教えてもらい、大変でしたが支援してもらって、無事採択となり費用の2/3を補助金で賄うことができました。

テーブルと椅子に変えたことでお客様の評判がよくなったのはもちろん、従業員さんがサービスをするときに立ったり座ったりがなくなったので、とても楽になったと言っていて、思ってもいなかったメリットもありました。

 

ーー事業計画を作成する上でのポイントはどんなところでしたでしょうか?

これまで私は、経営計画書を作ったことがなかったので、指導いただくままに書いたというところです(笑)。自分で書いていると、どうしても控えめに書いてしまうのですが、もっと訴えるようにとか、お客様が良いと言ってくれていることはオブラートに包まずにそのまま書くようにとか、自分の店を見つめ直すことで、頭の中にぼんやりとあったことが明確になり、実効性のある売上目標の立て方など、どうすればよいのかを教えていただきました。

また、上伊那の商圏や客層、競合などについてのデータやグラフを教えていただけるところもありがたかったですね。

 

ーー商工会議所とのお付き合いは長いのでしょうか?

両親がやっていたころからお付き合いさせていただいています。その頃は、帳簿を見てもらうために年に1回か2回相談に行くくらいでした。今も基本的には帳簿の付け方がわからないときに教えていただくということが一番多いんですけど、今回の事業計画作成などお付き合いの幅が広がっています。また、専門家が無料で相談に乗ってもらえる制度があると担当の方から勧めてもらっているところです。

 

この地のために役に立ち続けたい

ーーこれからやってみたいことなどはありますか?

正直、この地で、この建物で商売をしていくということを前提に考えるのは難しいのではと思うこともあります。ただ、はじめにお話ししたように、この施設はもともとこの地の人たちのためにという強い思いがあってできたものです。地元の方たちも、二十何年と来続けてくださる方や、忘年会にお祝いごとにと毎年必ず来て下さるグループも多くあります。そういう意味では地元の人たちにとって、うちがあることが役に立っていると思うと、持続していかなければいけないというのは、使命として感じますね。


ーー地元にとっての役割、ですか。

もちろんうちにお客様がたくさん来てくださることは大切なことですが、もっと、この周辺に人の流れができてほしいと思っています。例えば、ここのすぐ近くに、郷土芸能集団である田楽座という歌舞劇団があるのですが、毎年夏に田楽寺子屋というイベントをしていて、その宿泊にうちを利用してもらっています。外国から修行にいらっしゃる方もいて、一緒になにかすることができて、この地に文化的な流れを作ることができたら理想的ですね。

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たかずや鉱泉
高烏谷山のふもとにある料理が自慢のお宿。
11時~15時、17時~21時で日帰り宴会にも対応しています。

住所:〒396-0621 伊那市富県南福地9000
TEL:0265-73-3558  FAX:0265-73-9040

担当支援員よりひとこと
「施設が古い」「まわりに何もない場所」といったマイナスイメージを敢えて表に出すことがかえって良いアピールになっているのかも知れません。多くのお客様の来店の目的は「美味しい料理」です。施設や場所の不便さがそれ以上に魅力がある証しだと思われます。
今回の小規模事業者持続化補助金の活用は、お客様・従業員・事業所の三者にメリットがもたらされた取り組みとなりました。「テーブル・椅子」で食事がとれる事で魅力が増した店に繋がりました。