伊那市の中心市街地商店街にある昭和8年創業の正藤酒店。商工会議所の伴走型小規模事業者支援の一環で実施された、地元メディアとタイアップした販路開拓支援事業「伊那のホットdeコアな専門店ナビ」で紙面やテレビに取り上げられました。店主の山浦さんに思いを伺いました。


地元の酒の良さを伝えたかった

ーー複数の異種メディアに同時に取り上げられて、反響は?

商工会議所の会報でこの事業を知って応募したんです。自分ではPRの面は弱いと感じていたし、取材を受けることで、自分自身の方針とか思いとか、そういうものをあらためて確立できるんじゃないかと思って。長野日報やケーブルテレビに取り上げてもらうことができました。

 

ーーYouTubeでもアップされていますが、きれいな人にインタビューされてますね(笑)

この人誰?どこから連れてきたの?とみんなに聞かれてね(笑)。
見てくれてる人は多かったですね。お客さんがみんな話題にしてくれて。やっぱり露出するというのは必要だな、と思いました。店の思いや商品を知ってもらえるし、公共の媒体は重さが違うな、と。自分だけではこういった形にはできない。普通の広告とは違いますね。

自分の商品を知ってもらわないと、自分ではいくらいいものだと思っていても意味がないからね。昔ながらの店は、そういうのが足りないから。お客さんが来てくれないと困るしね(笑)

やっぱり、扱っている酒への思いを知ってほしい。お客さんは流行りのもの、話題になった酒を追いかけるけど、やっぱり体に合った酒、自分の舌で確かめて自分が「旨いなー」と思える酒を飲んでほしいから。話題性のあるお酒もいいし、必要だけど。

テレビでは8月末から9月にかけて放送されて、見てくれた人から、「そんな風に考えてたんだ」と言ってもらえました。地元の文化を大事にするという思いを知ってもらえたと思います。自分自身も、惰性でなくしっかり原点に戻らないといけないな、とあらためて思えましたね。

何でもあるのは、何もないのと同じ

ーーお店の歴史を教えてください。

店は昭和8年の創業で、昭和56年に父の跡を継ぎました。子供のころは2階から落ちてもケガしないような小さな建物でした。東京の大学を中退して店を手伝うようになったんですが、景気が良くて、面白かった。当時はこのあたりでは珍しかったんですが、父が取引先の蔵を開拓してきて全国のお酒を扱っていました。

でも、新潟の銘酒・久保田を扱い始めたときに、蔵の方に「何でもあるのは、何もないのと同じだよ」と言われたんです。「柱を作らないと」と。そこから久保田を中心としながら、地元の酒を扱うようになったんです。今は地元の酒とともに歩む感じですね。

店でこだわっているのは、大量生産ではないお酒を扱うこと。たとえば日本酒だったら、その年その年で米の出来も違う。年ごとの味の違いも知ってほしい。

ーー伊那谷の酒文化への思いが伝わってきますね。

伊那谷は、いい米がとれて、水も空気もいい。ウイスキーもビールもあるし、ワインやシードルの醸造所もできた。全部の酒があるのは、伊那谷だけじゃないかな、と思います。でも、やはり日本酒は地域の総合文化で、伊那谷には蔵がたくさんあるし、レベルが上がって、本当に胸を張って自慢できる酒になりました。店を通じて、この地域が酒造りに適した酒の王国なんだよ、ということを知ってほしくて。そんな思いでイベントもやっています。

商店街と地域みんなのために

ーー正藤さんといえば、「伊那街道呑みあるき」ですね。

春と秋の「呑みあるき」は、今年で12年目になります。きっかけは、諏訪で開かれている同様のイベントを見て、伊那でもやりたいな、と。最初はお金もなかったから、商工会議所にお金のことやテントのことなんかで全面的に協力してもらいました。商工会議所の担当者と2人で作ったようなもんです。

最初は来る人も250人くらいだったけど、今では客層も若い人や女性が増えて、600人以上来てくれるようになった。いずれは1000人くらいになればいいですね。そうなれば、お客さんと蔵元さんとで新たな展開になるんじゃないかな。


ーーイベント以外でも、商店街の活性化に取り組んでこられました。

地元ではあまり評価されていなかった井上井月さんをテーマにした新たな商品づくりや、「伊那まちの再生やるじゃん会」の活動など、商店街を活性化しようと。おこがましいけど、商店街みんなが良くなればと思ってやってきました。自分たちの代の店だけじゃなくて、いずれこの商店街に入ってきてくれる人たちもちゃんと商売になるような地盤を作ろう、との思いで。今では高齢化で閉めてしまう店もあるけど、一方で若い人の店ができたり、商店街以外の人がイベントで関わってくれたりと、新たな芽が出てきている気がします。

ーーこの商店街がどうなってほしいですか?

この商店街には駐車場はないけど、それでもお客さんが来てくれる魅力を創っていけばいい。商工会議所もずっとお世話になっているけど、こちらから働きかけて提案すれば必ず応えてくれる。だから、みんな突拍子もないことを考えればいいと思う。それをどうやったら実現できるかを一緒に考えればいい。そうやって、大型店と同じものを売るのではなく、安売りするのでもなく、伊那の文化を売るような商店街になってほしい。

自分たちはもう年だから、新しい切り口の若い人に期待したいね。自分はもう75歳になるし、あと何年できるかだけど(笑)。

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正藤酒店
地元の酒を中心に幅広い品ぞろえで、特に日本酒が豊富。
中心市街地の活性化にも熱心に取り組んでいる。

住所:〒396-0025 長野県伊那市荒井13
TEL:0265-72-2521
営業時間:9:00~21:00、元日定休(臨時休業あり)

担当支援員よりひとこと
長い業歴で培った経験を基に、伊那谷の酒文化を発信するイベント「伊那街道呑みあるき」を長年継続して実施するとともに、伴走型支援事業を活用して自店のこだわりを紹介するなど、新たな顧客獲得にも積極的に取り組まれています。また、今回の支援事業を通じて改めて気づいたことを商売に取り入れ、常にブラッシュアップを図っています。