板金加工で部品の製造を得意としてきた竜東スチールさん。新しい挑戦として、地域の課題を技術の力で解消するべく、自社製品の開発と販売に挑んでいます。これからの伊那谷の製造業の可能性について伊藤社長に話をききました。


地域の農家さんが困っている声が届いた

ーー創業した理由はなんですか?

親戚が製造業をしていた関係で、そこでアルバイトをしたことがあり、モノが作られているプロセスの面白さに魅力を感じていました。当時は本当に原始的な方法で、鉄の板にものさしを当てて線を引いたものを、はさみや手を使って切ったり折り紙を折ったりするように製品づくりをしていたんですよ。

短大を卒業したあとはサラリーマンとして営業職をしていましたが、そんな経験からだんだんと手に職をつけたい、自分なりの色を出して世間にモノを売ってみたい、という気持ちが高まって、たった一人で会社を立ち上げました。1995年のことです。

 

ーーどういった製品を作っているのでしょうか

板金というのは金属の板を切ったり、曲げたり、溶接したりする加工の技術のことで、うちでは特に精密板金加工を得意としています。半導体や電子機器などの小さいものから、業務用の食器乾燥機や製造ラインの安全装置など、大型のものまで対応しています。

 

最近では、はじめて自社で商品開発に挑戦しまして、市田柿の「ほぞ」を自動で切る機械を発売しました。

 

ーーほぞ、ですか?

はい。柿の「じく」の部分を「ほぞ」と言います。市田柿は干し柿なので、ほぞの部分に糸をかけて生産するのですが、出荷するときには切り落とさなければなりません。そのほぞを切る作業がとても大変だと言う相談を農家さんから受けました。

ひとつひとつ切るには手間がかかるし、力がいるので腱鞘炎になってしまうこともあって困ってると。その作業を効率化するために、ほぞ切りを半自動化した「ホゾキリキューブ」を製品化しました。

 

ーーはじめての自社開発で、苦労したことはありますか?

柿の生産は季節産業なので、プロトタイプを作ってもほぞ切りの作業があるタイミングにしか試すことができません。なので、開発には3年近く時間がかかりました。完成したのはお盆の時期だったのですが、その秋のほぞ切り作業までに商品をアピールしなければいけないということで、効果的にお客さんに商品を伝えるにはどうすればよいか悩みましたね。

 

ーーどうやって販路を開拓されたのでしょうか

商工会議所の「ものづくりプレスリリース応援事業」の協力をもらいました。新聞にリリースを出してもらったり、商工会議所で記者会見をしたりして情報を発信することができました。

 

ーー反響はどうでしたか?

地元の柿農家さん以外にも、和歌山県のミカン農家さんから問い合わせがあって驚きました。悩みを抱えている人が全国にいるのがわかりましたね。それから、新聞を見た地元のテレビ局から取材の依頼がありまして、生放送の情報番組に出演しました。夕方の番組なのに昼過ぎには取材班が来て、リハーサルを4回もやって大変でしたよ(笑)

新聞やテレビに出ることで、商品を知ってもらう以外の効果もありました。若い人が、地域のために商品開発をしているという部分に魅力を感じて、採用面接を受けに来てくれたのです。モノをつくって売るだけではなく、きちんと情報の発信することが新入社員の獲得につながったことはうれしかったですね。

商工会議所の支援で新しい可能性を模索

ーーほかにはどんな支援がありましたか?

「ホゾギリキューブ」については、情報発信だけでなく、知的財産についても困りました。活用しなければいけないのは分かっていても、何をすればよいのか全くわからない状態でしたから。
商工会議所の発明相談で、知財について相談したり、専門家派遣の制度で、無料で弁理士さんを紹介してもらったりして、必要な知識を得られたのは助かりましたね。

商工会議所のセミナーにもよく参加します。経営のアイデアについて、事業承継についてなど学べる機会があるのはありがたいです。

 

ーーこれからどんな支援を期待しますか?

今まで関わってこなかったような、いろいろな業界や業種とつながりたいと思っています。特に伊那谷はIターンなどで移住をして、新しい発想で農業に取り組んでいる人が多いですから、そういった人たちと一緒に、今までとは違った視点で製造業について考えていきたいと思っています。

商工会議所では、そういった人たちとのマッチングや、情報、アイデアをもらうことができるので、これからも期待しています。

伊那谷の技術が地域でも世界でも必要とされている

ーー伊那谷の製造業の可能性をどうお考えですか?

グローバル企業の製品づくりをすることもあれば、地域のちょっとした困りごとにも対応できるのが面白さです。地域の人たちが気軽に声を掛けてくれるので、農業機械の修理や、火の見やぐらを作ったり、どんど焼きのおもちを焼く用の網をつくったこともあります(笑)

 

ーーモノづくりの駆け込み寺みたいですね(笑)

一方で、意外かもしれませんが、有名ブランド店舗の装飾なんかも手掛けているんですよ。それを見たとしても誰もうちの技術とは気がつかないですが(笑)。でも、実は伊那谷の技術が東京や世界でも活かされています。そういうことを地元の若い人たちに知ってほしいですね。

 

ーーモノづくりをするうえで大切にされていることは?

AIやIoTの進化についていくために、これからの時代の変化を見こしたアクションを、グローバルな視点で考えなければなりません。一方で伊那谷では、農業に携わる人の高齢化や若い世代の減少が大きな課題になっています。
私たちのモノづくりの技術で、地域の課題を解決する
ということを、これからさらに大切にしたいですね。

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竜東スチール
 〒399-4432 長野県伊那市東春近下殿島3105

TEL: 0265-78-0704

http://ryutou.jp

担当支援員よりひとこと
「ものづくり応援プレスリリース」はがんばる経営者を商工会議所が広く地域に発信する事業です。高齢化や人手不足等の課題をものづくりで解決に取り組む伊藤社長は「知的財産活用相談」や「経営計画作成セミナー」等も活用し新事業展開に取り組んでいます。今後も身近な応援団として伴走支援します。