伊那市の中心市街地を背に国道を走ると、目に飛び込んでくる重厚な和風造りの商店。店頭では日本酒の仕込み樽の巨大な蓋に旬の酒の名前が大書きされ、酒好きを誘います。毎日店に立つ西村さんに、経営のこだわりと今後の展望について伺いました。


目を引く看板、蔵や客とのつながりを丁寧に


ーーおしゃれな店構えで、入り口の酒樽の蓋が目を引きますね。

この酒樽の蓋は、地元の酒蔵さんからいただいたものなんです。これを見て入ってきてくれる方も結構おられます。
建物は25年くらい前に建て替えていますが、創業当時は醤油屋で、父が飯田の味噌屋さんの丁稚奉公を経て戦後まもなく独立した店です。40年ほど前に酒を扱い始めて、まだ大型店が酒を扱うようになる前で売上も良かったそうですが、店を建て替えた頃から規制緩和で量販店が増えて…。急激に下がって、大変な時期に私が入りました。


ーー転換期をどのように乗り越えたのでしょうか。

徐々にお客さんが減っていく中で、その頃に新潟の地酒ブームが来ました。ブームに乗っかろうと、新潟まで行ってお酒を売ってもらって揃えたりもしました。でも、ブームになると簡単には売ってくれない。大変でしたし、限界がありました。そこでワインに着目して、新たに勉強を始めて2003年にはソムリエの資格も取得しました。

ワインも最初はフランスのものを中心にやっていこうと思ったんです。でもそれも無理があった。今では、業者さんの試飲会に足を運んで、良かったものだけを扱っています。自分がしっかりとお客さんに説明できるものだけ、自分が気に入ったものだけを。産地の国はいろいろですが、出来る範囲でやっていくスタイルです。背伸びしても続かないですから。ワインが少しずつ伸びてきて、今では日本酒とワインが半々くらい。ワインを置いてから、お客さんの層も変わって、女性が増えましたね。


ーー日本酒は長野県内の蔵だけに特化しておられます。

そうです。一つひとつの蔵を回って、ほとんどが南信です。ブームに振り回されるのに疲れたのもありますが、取引きするならしっかりとやりたい。安易に県外のお酒に手を出して、「やっぱり売れませんでした」というようなことはやりたくない。やはり県内のお酒の方が知ってくれている方も多いですしね。

扱うお酒は、期待を裏切らないもの、値段と味が合っていることを一番に大切にしています。もちろん量販店にもいいものもあります。それはそれでいい。でも、うちに来てくれたら、しっかりお話しをしながら、期待を裏切らないものを売っていきたいといつも意識しています。


ーーご自身で飲むときはいつもワイン?

最初は勉強のためでしたけど、今でもワインがいちばん飲みますね。日本酒も飲みますけど。でも、酒を飲み始めた頃はやっぱりビールでしたけどね(笑)

日本でここにしかないお酒がある

ーー最近はシードルも人気です

伊那市横山のカモシカシードルを置いていますが、うちにしかないオーガニックシードルもあるんです。
西箕輪の「白鳥農園」のリンゴを使ったシードルで、長谷にあるジビエ料理の「ざんざ亭」からお話しをいただきました。無農薬、無化学肥料のリンゴ農家は日本で4軒だけだそうです。栽培がすごく大変で、収穫量も普通のリンゴからするとかなり少ないそうです。

そんなリンゴを使って、松川町のワイナリーに製造を委託しています。商工会議所の支援で発表会も開きました。

オーガニックなので、値段は少し高くなります。
店で扱うだけでなく、外にも出していきたいし飲食店にも使ってほしいけど、無添加だけに管理が繊細で、開栓したら吹いてしまうんですよ。だからここだけでしか扱ってないです。ボールで受けて開けてください、と説明しながらですね(笑)。

 

商工会議所のサポートを受け、新しい展開を

ーー今回、小規模事業者持続化補助金を活用したとお聞きしました。

店の業務用エアコン2台分の導入に活用させていただきました。店の温度管理が課題となっていて。ワインを扱うには安定した温度管理が必要なのですが、業務用エアコンは本当に高額。そんなときに、知人にこの制度を教えてもらって、商工会議所に問い合わせたんです。

商工会議所の会員ではあったけど、補助金の申請を出すのは初めてでした。書類は基本的には自分で出しましたが、売上の予測など数字の出し方をしっかりとアドバイスしてくれて、本当に助かりました。おかげさまで、温度管理が全然違います。売上も増えましたし、こだわりの酒、いいものが扱いやすくなりました。


ーー今後やりたいことは?

品ぞろえは少しずつでも増やしていきたい。うちは味で選んでいるものが多いけど、ワイン好きのお客さんは有名どころも求めています。資金力も必要ですが、お客さんの目先を変えていくには手を広げることもある程度は必要かな、と思います。今後はワイン好きがあこがれる有名な銘柄も扱っていきたいですね。

店頭の看板やディスプレーでワインをアピールすることもやっていきたい。和風な建物なので、ワインをどう店頭でアピールしていくか悩ましいところですが(笑)。店に直接来てくれるお客さんを大切にすることは意識しながら、課題は店のことをいかに知ってもらうかですね。
商工会議所には、本当にお世話になりました。今後は、「シードルを外に売り出したい」となったときに、販路の紹介などもしてくれたらありがたいですね。

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西村酒店
ワインと県内の地酒を中心に扱う地域密着の酒店。

住所:〒396-0011長野県伊那市日影4704-5
TEL:0265-72-3072
営業時間:8:30~20:00 不定休

担当支援員よりひとこと
西村酒店とは、お父様の時代からお付き合いのあるお店です。現在は後継者である孝喜さんが中心となって事業を進めており、他店との差別化を図るための新たな取り組みのきっかけとして小規模事業者持続化補助金を活用されました。店舗用のワインセラーよりも安価なエアコンを導入し、「お店を丸ごとショーケース」とすることで、店内の広範囲で繊細な温度管理が可能となり、地元農家との連携で開発した日本初のオーガニックシードルの販売を開始するなど、魅力ある店づくりをされています。