1920年創業の菓子専門店、菓子庵石川の4代目である石川信頼さん。「ちいずくっきい」という定番商品に加えて、「伊那谷のたからものシリーズ」を販売しています。お菓子を通して伊那谷のためにできることを考えているという石川さんに話を伺いました。


伊那谷のお菓子屋としての使命があると思った

ーー「伊那谷のたからもの」はどういった経緯でできたのでしょうか。

商工会議所が完全地産で伊那のお土産を作るというプロジェクトを支援していて、製造業の方が中心だったのですが、そこで連携を取らせていただくことになりました。「伊那谷のたからものプリン」はその取り組みから生まれたものです。

それまで自分でも、できるだけ地元産の素材を使ってお菓子作りをしてはいたのですが、完全に伊那谷で生産されている素材を使ってモノづくりをするということや、地元の素材を使うことで地域を盛り上げようというコンセプトに、とても刺激を受けました。

伊那谷産の素材で商品開発をしようとしたときに、はじめてのことだったので一人ではどうすればいいかわからないことがたくさんありました。商工会議所にはノウハウや人とのつながりといった面で助けてもらいましたし、プロジェクトのメンバーの方たちや地元の生産者の方と関わることで、自分の枠にはない発想が入ってきました。それによって自分の枠もどんどん大きくなって、やりたいことが増えていきました。きっと一人でやっていたら、その当時、完全に地元の素材でやろうということまで考えられなかったかなと思います。

ーー新しいことに取り組もうと思ったきっかけは何でしょうか。

今までのお客さまが愛着を持ってお店に来て下さっていてとてもありがたい一方で、時代が変わっていくなかでだんだんとこのままでいいのかなという気持ちも出てくるようになりました。

私は一度伊那を出ているのですが、10年ほど前に帰ってきて、改めてこの地域の良さや魅力を感じたときに、それを伝えるアイテムの一つとしてお菓子があるということに気が付きました。お菓子というのは、誰にとっても馴染みのあるものですし、入り口としてのハードルが低いですよね。それこそ子どもにだって、おいしいものの良さは分かります。なので、地元の良いものを集めてお菓子を作ることで、伊那谷の魅力を伝えるということがお菓子屋としての一つの使命と考えるようになりました。

子どもたちに伊那の良さを伝えたい

ーーお客さんの反応はいかがでしたか?

当社にはケーキ屋さんのイメージはないので、洋菓子はあまり出ないんですね。「伊那谷のたからものプリン」を出す前からプリンも売ってはいたんですが、正直売れ筋ではありませんでした。でも「伊那谷のたからものプリン」はコンスタントに出てくれますし、リピートで買ってくれるお客さまも多くなってきました。「地元産でいいよね」と言ってくださる方もいらっしゃって、少しずつでも伝わっているのかなと感じます。そういった中で、だんだんと子どもたちにも伝えていきたという気持ちが強くなりました。

 

ーー子どもに何を伝えたいのでしょうか?

自分が子育てをしているからかもしれませんが、子どもたちに、自分たちが食べているものがどういう風にできているのかというのを、直接見て、知ってほしいと思うようになりました。

伊那谷のたからものシリーズの第二弾として、信州大学農学部との共同開発で韃靼そばを使った「伊那谷のたからものロールケーキ」を発売したのですが、その時に、販売開始のイベントとして、子どもたちと一緒にロールケーキを作る教室を開催しました。生地は焼いたものを用意しておいて、クリームを立ててもらってロールケーキを巻いて。そのあとに信州大学の先生に韃靼そばについて話してもらうというお勉強的なこともして。

お菓子を通して子どもに伊那谷にある素材を伝える機会として、そういったイベントをコンスタントに開催していきたいと思っています。自分のアンテナを張っていると、いろいろなところでそういったことをしているのがわかったので、自社だけでするのではなく、コラボレーションをすることでより多くの人に伝わるのかなとも思っています。

老舗だからこそできる挑戦をしたい

ーーさらなる挑戦もあるのでしょうか?

新しい取り組みとして、「ちいずくっきいサンデー」という新商品の開発をしています。商工会議所や市役所の若手職員の方、JAさんなどが主体となった「イ~ナちゃん応援隊」というグループの中で、地域の農産物を使ったジャムと当社の定番商品であるちいずくっきいのコラボレーションができる商品を共同開発しました。

ちいずくっきいを素材としてとらえて、そこにアイスクリームやジャムをトッピングしてパフェのようにするという提案です。ジャムなら、くだものなど伊那谷産のいい素材がありますから、いろんな飲食店で、それぞれのスタイルのちいずくっきいサンデーが提供されるようになることが最終目標ですね。

当社には、基盤としてのちいずくっきいという商品があるからこそ、新しいチャレンジをする余力もあるのではないか、そこでお菓子屋として地域の良さを伝えることができるんじゃないかな、という風に思っています。

伊那谷っていうことで限定して考えると、「伊那谷のたからもの」、という言葉で表現されるように、それぞれの人がこの地域のよさを宝物として持つことができるといいなと思いますが、もっと広く考えると伊那谷に住んでいない人だって、それぞれにふるさとがありますよね。お菓子を通して、みんなそれぞれに、自分の故郷を大切に考える日ができるといいなと思っています。

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菓子庵石川本店
代表銘菓「ちいずくっきい」「タックワース」をはじめ、伊那谷のたからものシリーズなどのお菓子を通して、お客さまの幸せを創造している。

住所:〒396-0025 伊那市荒井11
TEL:0265-72-2135
HP:http://www.kashian-ishikawa.com
営業時間:9:00~19:00 ※定休日:元日

担当支援員よりひとこと
老舗4代目でありチャレンジ精神旺盛な石川社長を商工会議所では新商品づくりの視点として、人と地域の魅力と資源をつなぐ「マッチング(連携)」をコーディネートしています。試作品のマーケテイング調査やイベント企画等の支援も行い、地域の活性化にもつながるよう、今後も応援していきます。